前近代中国研究班

研究班メンバー(『東洋見聞録』2019.vol.23掲載)

研究テーマ

中国社会経済・基層社会用語シソーラス(thesaurus)の構築

研究概要

 本研究の目的は、これまでの研究成果をふまえ、前近代中国の歴史を根本史料に即しつつ実態、実相を復元して学界に提供するものである。これまでの作業をさらに深めるとともに、今期はとくに基層社会の史料を詳細に考察することにも重点を置く。これは中国史の史料学における基礎作業である。

 これまでの作業の重点は【基層の社会経済についての用語解の編纂とデータベース化】に置いてきたが、これは集約の段階を迎えつつある。今日、旧中国の伝統文化、経済史、社会史、法制史に関心を持つ研究者、読者は増加しているが、既存の辞書のほとんどは伝統漢学を讀解する工具として編纂されており、世相の実態、真相についての知識を求める人々が、随時坐右に参照できる用語解、術語解はこれまで存在しなかった。東洋文庫では開設以来《歴代正史食貨志訳註》と題する事業を継続させ、10種の《正史食貨志》本文の訓読と詳しい注釈を蓄積し、〈論叢シリーズ〉として2009年までに《宋史食貨志訳註》(一)~(六)・索引、計7冊(総頁数3,997頁)を公刊してきた。本研究はこれらの永年の蓄積に基礎を置きつつ、当面、『増補改訂版 中国社会経済史用語解』(唐奨基金)の出版および中国法制用語データベースの公開を計画している。

 さらにこれまで続けてきた明代日用類書『三台萬用正宗』などの訳注作業をいっそう深めて、逐次データベースとして公開する。それに付け加えて、新しい研究の視点を模索する活動を進める。そのため『三台萬用正宗』の主要部分を改めて見直し、他の日用類書との比較をおこなって、明代日用類書全体を通観する視点を探る。これは基層社会における「知」のあり方を考える重要な手がかりとなり、中国独特の〈柔らかな〉基層社会を捉えるための基礎となるはずである。

「新 研究班目標」(2024 3 16)

 本研究は前近代中国の史料学の拡大と充実に向けた基礎作業である。東洋文庫では創設以来、《歴代正史食貨志訳註》と題する研究事業を継続させ、すでに各王朝の《食貨志》篇本文に対して詳しい訓読と註釈を施し、ついで2009年までに《宋史食貨志訳註》(一〜六)、《同上総合索引》を公刊してきた。この伝統と成果によって中国社会の法制、経済、社會の進化発展の主要な軌跡は解明されてきたが、《正史》によって究明される事実は,行政、財政、司法の執行や政策の反映に偏しがちであり、基層の社會全体の実相、動態の変化を知るには不十分である。

 中国社会は、唐の半ばから大きく変わった。道教や仏教でも世俗信仰が活発になった。文芸の世界では識字の普及に呼応して、《類書》という百科全書ジャンルが生まれた。その中に手紙の雛形や契約書の手引きが現れ、発達して地理案内、商業の手引き書が明代末期に登場してくる。本研究では、明代の《日用百科》と総称される百科全書を社會全般の〈世俗化vernacularization〉を究明するための手がかりを与える重要史料として注目し、当面、訓読と注釈を進め、そのデジタル化を推進して江湖の利用に供する作業を進める。

研究班メンバー