研究テーマ
日本近世史料学の再構築 ―基幹史料集の多角的利用環境形成と社会連携を通じて(22H00692)(23K21964)
研究概要
本科研の問題意識
古文書学が権利文書の真偽判定と切り離せないかたちで形成されてきた西欧に対し、日本においては、近代的古文書学の構築が、近代国家をはじめとする公私の史料編纂と一体不可分のかたちでなされ、発展してきた。ここでいう史料編纂とは、史料の収集と解析の上で研究活用可能な状態に整えた史料集の刊行に至る、一連の過程のことである。
近代日本における代表的史料編纂事業は、明治政府が、日本の正史を叙述する修史事業を行う史料編輯国史校正局を1869(明治2)年に開設したことに始まる。同事業は、編年史から史料集へと出版物の形態を変更することになりつつも、現在の東京大学史料編纂所(以下編纂所と略称)へと受け継がれ、既に約1200冊もの史料集が出版されている。こうした史料編纂事業における、史料の収集・解析作業、及び研究活用に資する史料集としての版面校正作業などを通じて、史料そのものの緻密な分析が行われ、古文書学の知見が経験知という形で膨大かつ精緻に蓄積されてきた。しかしそれが体系化されて、学会・社会に示されたことはなかった。
また、近世古文書学構築における固有の困難さとして、古代国家がまがりなりにも公式様文書の体系に依拠し、中世以降武家様文書が登場していくという、古代・中世の古文書学の見方では、近世の、質的にも身分的にも拡大し多様化した史料を体系化できない点があげられる。かつて高木昭作は、このような状況に対して「近世史研究にも古文書学は必要である」(稲垣康彦他編『中世・近世の国家と社会』東京大学出版会、1986)との警鐘を鳴らした。しかし、高木が指摘した状況は、こんにちでもなお克服されたとはいえない。
以上のような、独自の近世史料学の体系化の欠如をいかに克服するか、これが本研究の核心的「問い」である。
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