キリスト教交流史 -宣教師のみた日本、アジア-

2024年1月27日(土)〜
2024年5月12日(日)

「キリスト教」はご存じの通り世界的な宗教ですが、その歴史をさかのぼると、東西の文化交流において重要な役割を担ってきたことに気づきます。
はじめは陸路で、大航海時代には海路を使って宣教師たちがアジア諸地域に次々とやってきましたが、反応や受容のあり方は地域ごとに異なるものでした。キリスト教交流史の視点からアジアを眺めることで、かえってアジア各地の多様性や特徴が際立って見えてくることでしょう。
東洋文庫は設立時からキリスト教関係の貴重書を豊富に所蔵しており、国内有数の質と量を誇ります。諸言語で編まれた多彩な作品群から、キリスト教を通じた東西交流のあゆみを追いかけてゆきましょう。

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展示構成とみどころ

1.大航海時代前の宣教-モンゴル帝国が繋げた東西交易路

I.『中国図説』
アタナシウス・キルヒャー
1667年 アムステルダム刊

著者のキルヒャーはドイツ出身のイエズス会士で、ヨーロッパにおける中国研究の第一人者です。
しかし、彼自身は中国へ行きたいという希望は出していたものの叶わず、ローマで中国語を勉強し、中国の地図や風俗を紹介する本書を執筆しました。
図版は中国の明末17世紀に長安で発見された「大秦景教流行中国碑」を紹介したページです。唐末には石碑も埋没したと考えらえていましたが、17世紀に出土すると即座にヨーロッパにも紹介され、ビッグニュースとなりました。

I.II.『東方見聞録』
マルコ・ポーロ口述、ルスティケッロ著
1485年 アントワープ刊

13世紀、モンゴル帝国支配下で東西交通路が整備された時代、陸路で中国まで至った有名な人物が、マルコ・ポーロです。
彼が中国へ行くこととなったきっかけとして、モンゴル皇帝フビライ・ハンとローマ教皇をつなげ、キリスト教の宣教師をフビライの元へ送る任務があったことが 『東方見聞録 』には書かれています。
同行した修道士は道の険しさに途中で帰ってしまいますが、マルコらはフビライの元に教皇からの親書や聖なる贈り物を届けることには成功したようです。

2.大航海時代-発見・征服・宣教

III.『聖イグナチオ・デ・ロヨラ伝』
ダニエッロ・バルトリ
1650年 ローマ刊

著者は17世紀に活躍したイエズス会の歴史家で、イエズス会関係者の伝記や、活動地域別にまとめたイエズス会史などをローマで執筆しました。
本書は、イエズス会の創立者の一人で初代総長をつとめたイグナチオ・デ・ロヨラ(1491-1556)の伝記です。扉絵にはイエズス会による世界宣教の寓意が込められています。
四人の人物はそれぞれ四大陸(ヨーロッパ・アジア・アフリカ・アメリカ)に見立てられ、彼らは天上のロヨラから放たれる光を仰ぎ見ています。

IV.『ポルトガル領アジア』
ファリア・イ・ソウザ
1666-75年 リスボン刊

本書はポルトガルの歴史家で詩人としても知られるファリア・イ・ソウザの著作です。ポルトガル人のアジア各地の進出状況が詳述されています。 ポルトガル人の進出を受けて繫栄をみたアジア各地の交易都市、たとえばインドのゴア、マレー半島のマラッカ、中国のマカオなどを詳細に描いた地図も随所に織り込まれています。 こうした地図には商館や教会の場所が細かく示されており、ポルトガルにとってのアジア進出が商業活動とキリスト教宣教の両輪で展開されたことを推測させます。

3.「東洋の使徒」サビエルが開いた日本宣教

Ⅴ.『ザビエルの生涯』
オラティオ・トルセリーニ
1600年 バリャドリッド刊

本書はフランシスコ・ザビエルの伝記です。
ザビエルは1549年からの約2年間の滞在中、西日本各地の有力大名らと面会をして改宗をするよう積極的に働きかけました。
その結果かなりの信者を獲得しましたが、日本全土へと拡大するためには、日本文化に多大な影響を与えている中国での宣教が不可欠との考えにいたります。そのためゴアに戻った後中国へと旅立ちましたが、病のために志を果たせず、1552年マカオ近くの上川島にて46年の生涯を閉じました。

Ⅵ.国指定重要文化財
『ドチリーナ・キリシタン』
1592年 天草刊

1549年のザビエル来日以降、日本でキリスト教を布教したイエズス会による出版物です。キリスト教の教義を12の項目に分けて、ローマ字表記の日本語で説明しています。
イエズス会の宣教師ヴァリニャーノは、天正遣欧使節の帰国時(1590年)にグーテンベルクの活版印刷機を九州に持ち帰らせました。
この印刷機により、16世紀末から17世紀はじめに印刷された書物を「キリシタン版」といい、本書はそのうちの一つです。厳しい弾圧にあったため、キリシタン版は世界にわずか30種ほどしか残っていません。

VII.『サクラメンタ提要』
ルイス・セルケイラ編
1605(慶長10)年 長崎刊

カトリックでは伝統的に、「秘せき(サクラメンタ)」とよばれる、神の恩寵を人間に与えるために教会が制定した7つの儀礼(洗礼や婚姻など)が行われてきました。本書はその手引書で、日本司教のセルケイラが編纂しました。
天正遣欧少年使節の一行が持ち帰った印刷機で長崎において刷られたキリシタン版の一つです。
日本の印刷史上初の二色刷りであると同時に、19曲のグレゴリオ聖歌を収めた「洋式五線譜」が掲載されている最古のものです。

VIII.『日本におけるキリスト教の勝利』
ニコラ・トリゴー
1623年 ミュンヘン刊

フランドル出身イエズス会士のトリゴーは、日本の殉教史を題材とした作品を執筆しました。
ラテン語で書かれた本書は、キリシタンに対する拷問や処刑を描いた銅版画を多数収録していることで有名です。
図版は、1614年11月の島原半島口之津における弾圧の文脈で現れ、信徒の集団とそれを取り囲む銃兵・槍兵・弓兵が描かれています。
このとき殉教を遂げた信徒のなかには、豊臣政権の朝鮮侵攻で捕らえられた後に日本で洗礼を受けた朝鮮人も含まれていました。

4.禁教国 ・ 鎖国の日本へ

Ⅸ.『日本殉教精華』
アントニオ・フランシスコ・カルディン
1650年 リスボン

本図は「マカオ使節処刑事件」を描いた銅版画です。
島原天草一揆の翌 1639年、徳川幕府はポルトガル船の来航禁止に踏み切りましたが、マカオのポルトガル人は長崎貿易の復活を願い、1640年に代表使節を長崎へ派遣しました。
ところが徹底した「鎖国」政策の前に彼らの願いは叶えられず、ポルトガル人の使節4名と世界各地出身の随行者57名が首を刎ねられました。

5.東アジア世界に広がる新たな宣教フロンティア

Ⅹ.『中国新地図帳』(『新地図帳』vol.11より)
マルティノ・マルティニ
1655年 アムステルダム刊

編者のマルティニはイタリア出身のイエズス会士で、明末清初期中国で布教活動を行うと同時に、中国に関する著作を多数発表しました。本書は中国の地図をまとめたものです。
扉を飾るこの図版には、様々な意味が込められているようです。イエズス会のモノグラムで飾られた太陽の光を、カトリック教会を擬人化した女性が持つ鏡で反射し、天使の持つ松明を灯します。
松明は図面下のアジア地図を照らしています。天使たちはアジアへ宣教にゆく計画を練っているかのようです。

6.日本再布教の時代

Ⅺ.『パリ外国宣教会宣教地図帳』
アドリアン・ローネイ
1890年 リール刊

著者のアドリアン・ローネイ(1853-1927)はパリ外国宣教会の司祭ですが、
歴史家でありアーキビストとして、 『パリ外国宣教会全史 』をはじめ同宣教会の布教史に関する数多くの著作を残しています。
本地図帳は刊行の19世紀末時点でのパリ外国宣教会の管轄するアジア各地の代牧区(使徒座代理区)を一つ一つ取り上げ、それぞれにおける布教の歴史を紹介する内容です。
地図内には教会や神学校などの所在地が示されており、各地の信仰コミュニティの規模なども記されています。

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