2026.10.07

No5. 2026.10.07 兩儀玄覽圖について

兩儀玄覽圖について

 

マテオ・リッチの世界圖―「坤輿萬國全圖」と「兩儀玄覽圖」

いま東洋文庫ミュージアムで開催されている「地圖展」は、東洋文庫の所藏する「坤輿萬國全圖」の清初寫本全六幅の修復が無事終了したことを記念する意味もあると聞いている。
「坤輿萬國全圖」はいうまでもなく、イタリア人の耶蘇會士マテオ・リッチ(利瑪竇、Matteo Ricci)が作成した世界地圖で、明末の萬暦三十年(1602)に印行されたが、現在世界中に十點未滿しか殘っていない。日本國内には宮城縣立博物館や京都大學圖書館、内閣文庫に所藏されている以外に、江戸時代に傳來した初刻本にもとづく寫本がいくつか傳來している。
東洋文庫の本圖は、清朝に入ってからの寫本だが、中國で作られた精巧な寫本で、國内の所藏品としては唯一のものである。
さてリッチが作成した世界圖は幾つもあり、その名稱も異なっている。當初は「山海輿地全圖」という名稱であったが、これは今日では殘されていない。萬暦三十年の李之藻による版が非常な好評で、再刊が各方面から要望されたが、當の李之藻が版木とともに故郷の杭州に歸ってしまっていたので、すぐには再版に到らなかった。そこでリッチはやはり教徒の李應試に依頼して新たな地圖を印刻した。それが「兩儀玄覽圖」というものである。
これは「坤輿萬國全圖」の改訂新版ともいうべきもので、現在わずか二點しか保存されていない。一つは韓國の崇實(スンシル)大學校韓國基督教博物館に所藏され、もう一つは中國の遼寧省博物館に所藏されている。全八幅からなり、「坤輿萬國全圖」よりも更に大きい。この地圖は現在日本には所藏されていないけれども、實はかつて日本にも傳わっていたことが知られる。

 

天理圖書館所蔵「兩儀玄覽圖」

天理圖書館所藏の古義堂文庫は京都堀川の伊藤家累代の藏書を網羅していることは有名な事實だが、その中に伊藤塾第三代に當たる東所先生の「書籍目録」が含まれている。その中に「兩儀玄覽圖 凡八舗」が見えており、以下の説明が加えられている。
もう十年以上前に天理圖書館で拝見したことがあり、その時のノオトから轉録すると以下のようになる。(ただし……の一行はどうしても讀めなかった。)

「利瑪竇之所圖ノ由也
月令廣義ノ作者馮應京
ノ序モ載、廣義ニモ此小圖
ヲ載。甲申(1764)二月福井氏宅ニテ
得觀之。予歸而考唐土訓
蒙圖彙所載輿地全圖
二畧同、只玄覽爲一圖□
……
此各異る也。」

この記録から、伊藤東所は明和元年二月に福井崇蘭館で「兩儀玄覽圖」を見たことが分かる。名稱の一致のみならず八舖とあるからには、間違いなく「坤輿萬國全圖」の改訂新版たる「兩儀玄覽圖」であると思われる。
福井崇蘭館は代々御典醫を務めた福井家の藏書樓で、古籍善本の藏儲を以て知られていた。嘉永七年(1854)に火災に罹り、多くが燒亡したと傳えるものの、崇蘭館舊藏書は間々世上に傳存しているので、ひょっとすると「兩儀玄覽圖」もどこかに傳わっているかも知れない。

(高田時雄)