MAおすすめ本シリーズ第5弾

みなさまこんにちは。MA硬水です。

前回のハリーポッターからのバトンを受け、次に繋げられるようMAおすすめ本シリーズ第5弾、走ってみたいと思います。魔法学校という舞台自体も非常に魅力的ですが、読みながら自分の感覚が察知する、“あれ?これってもしかして?”信号に一旦目を留め、行間と想像の間の世界(ダイアゴン横丁のような)へ寄り道しながら読み進んでいくのも小説の魅力の一つですよね。
私もそんな作者の魔法にかかる時間がとっても好きです。

今回ご紹介する本も、作者の魔法がいたるところに降りかかった、魔性の本といっても過言ではないと思います。
奇想小説の異端児と呼ばれていらっしゃる、田辺青蛙さんの『人魚の石』という小説です。
私はぎょっとするほどに潜在意識を変えてくれるような発想や、麗しいほどアイテム選び・言葉遊びが独特な小説に魅力を感じるのですが、『人魚の石』も始終、魚っとさせてくれる物語です。

あらすじをざっくりとまとめますと、山里を離れて暮らしていた主人公が、故郷の寺に帰り、新たな人生を切り開くための準備をするという内容なのですが、太陽のような希望に満ちた光が見えるというよりは、うす暗い霧の中に迷い込んでいるようなぬめっと感がしだいに心地よく感じられてくる妖しさをまとった小説、という印象です。湿気は本の敵とされておりますが、この小説は水も滴るいい人魚が登場し、物語にいい塩梅の雨と禍を降らしてくれるので、びっしょりと濡れた本もいいものだなという泥のように柔らかい思考をもたらしてくれると思います。

小説の面白さというのは人の数だけあって良いのではないかなと私は思うのですが、みなさまはどのような観点から本を楽しまれているでしょうか。

『人魚の石』はストーリー展開ももちろん面白いのですが、先にお伝えした通り、作者が言葉に魔法をかけていらっしゃるので(勝手にそう感じています)、透かし絵を見るように妖しい文字に気を置いて読むと、ふと言葉が浮かんで見えるものがあり、雨やら何やら色々と降ってくる中で、下から浮かび上がってくる異語たちの不敵な笑みを観ることができます。

個人的には、突如現れた人魚があたかもそれが日常であるかのように主人公に「ビール」を買って来てほしいと頼む一方で、主人公は非日常的な怪事が起こり訳の分からないことを全て吹っ飛ばしたい思いで「一杯」だというような叙述があるのですが、正反対の感情ともいえる冷静さと焦りのみえる2人を対象的な語ではなく、「ビール」と「一杯」という言葉で繋いでいる作者の遊び心がとてもチャーミングで、主人公たちはさておき、言葉同士が同志を持って乾杯している絵が見え、面白いなと感じた名場面として一番に挙げたい描写です。

紹介文としては少々特異なお気に入り文をお伝えしてしまい反省しておりますが、蛙嫌いの私でも青い蛙なら友達になれそうかなと意識が傾くくらい、青蛙さんの魔法に魅せられた読書タイムでした。

みなさまもぜひ「、」や「-」など細部にまで目を凝らし、作者と言葉たちの見事なチームプレーに混ざりながら、見えるものにしか見えない空間を自由な発想で浮遊してみてはいかがでしょうか。

これはこういうものだ、とされてきた考え方から飛び出し、自分なりの想像力を膨らませながら新たな路を導き出した先人たちの貴重な史料が「大宇宙展」でもご覧いただけます。
22日までどうぞお楽しみください。

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